睡眠が不足すると、私たちは元気がなくなったりイライラしたりするように、睡眠には疲労した脳や体を休息させ回復させる働きがある。睡眠不足が長期化すると、一晩眠っただけでは取り返すことのできない問題を心身に引き起こすことにもなる。
例えば、次のようなトラブルだ。
この例からも分かるように、睡眠中、私たちの脳や体の中では、細胞レベル、遺伝子レベルで、実にいろいろなことが行われている。睡眠を「魔法の薬」と表現する人もいるほど、睡眠には私たちの脳や体を若く健康に保つための驚くべき働きがある。
睡眠は脳にとって特に重要である。睡眠不足のときに感じる不愉快な気分や意欲のなさは、体ではなくて脳そのものの機能が低下し、脳が休息を要求していることを意味する。
睡眠が不足すると、精神的に不安定になり、さらにはうつ病などの精神疾患になることもある。脳はとても脆弱(ぜいじゃく)な組織で、脳を休息させるだけでなく、翌日に備えて修復・回復させるのが睡眠である。また、特に睡眠は胎生期や小児期の脳をつくり、育てる働きがある。
さらに睡眠は認知機能にも影響を与え、睡眠不足では大脳の情報処理能力に悪い影響が出て、判断能力や記憶力が低下する。
「寝る子はよく育つ」というように、睡眠中には体の成長を促す成長ホルモンが分泌される。この成長ホルモンによって、骨や体がつくられ、成長期の子どもでは発育が促進される。
一方、大人にとっても成長ホルモンは重要なホルモンである。大人では身長は伸びないが、成長ホルモンは細胞の新陳代謝を促すので、切り傷や刺し傷、やけどなど傷の治癒促進、強く丈夫な骨や若々しい肌の維持といった抗老化の働きをする。
良い睡眠をとれると、同じく成長ホルモンの働きによって、体の種々の細胞が再生され、免疫力が高まる。傷が治ったり、風邪が治ったりするいわゆる自己治癒力を促すのが成長ホルモンであり、睡眠である。免疫力が高まるということは、がんにもなりにくくなるということだ。
今、こうしている間にも、私たちの体の中では、生命維持のためにさまざまな物質が合成されたり、分解されたりする化学反応(代謝)が行われている。例えば、食べた物をエネルギーとして体に蓄えたり、蓄えたエネルギーを必要な時に取り出したりと。この代謝を円滑に進めるのが体内の潤滑液ともいえる酵素である。
すこし、大げさな表現だが、酵素は体の全ての活動に必要な重要なタンパク質である。そして、睡眠中は酵素がたくさん生産されるのである。日中の活動は酵素を消費する方向にはたらくため、睡眠中に酵素を生産することで、翌日の活動が円滑になるのである。
朝起きるとトイレに行きたくなるように、睡眠中には体内の老廃物が処理されている。活性酸素という言葉を聞いたことがあるだろうか? 私たちの体内で生じる老廃物の一種で、体の組織を酸化させる。つまり、さびつかせ、老化を促進するのである。
がん、動脈硬化、認知症などさまざまな病気の原因とされるのがこの活性酸素である。夜間や睡眠中にはメラトニンというホルモンが分泌され、活性酸素の無毒化が活発に行われている。
私たちは眠っている間に心身共に健康になっている。しかし、睡眠の本質的な役割についてはいまだ不明な部分も多く、世界中の研究者たちが日々探求を続けている。睡眠とはなにか?人や動物はなぜ眠るのか?といった問いかけに対して明確な答えはいまだ存在しない。睡眠の重要性は言うまでもないが、睡眠は現代最大の科学的ミステリーのひとつでもある。
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