私たちは通常、朝起きて昼活動し夜眠るという、地球の自転周期に合った約24時間のリズムで生活しています。この生活リズムは、「朝は起きましょう」「夜は眠りましょう」というように世の中の都合で決められたものではありません。地球上で何億年も生活してきた生物が、厳しい生存競争に勝ち抜くために、進化の過程で獲得した形質で、私たちは生まれながらにこのリズムを刻む遺伝子(時計遺伝子)をもっています。
この約24時間(24時間よりも少し長く、個人差があるが大体24−25時間)のリズムを概日リズム、またはサーカディアンリズムといいます。睡眠と覚醒のサイクルだけでなく、ホルモン分泌、血圧や体温調節など私たちの生理機能のほとんどはサーカディアンリズムを持ち、24時間のリズムで変動しています。
人間だけでなく地球上のほぼすべての生物が体内時計を持ち、約24時間をカウントしています。人間の体は約60兆個の細胞でできていますが、生殖細胞を除く全ての細胞ひとつひとつが体内時計を持っています。
それぞれの細胞の時計はばらばらに動くのではなく、体内時計の中枢からの信号を受け取り、同期して働いています。
この体内時計の中枢は脳深部の視交叉上核(しこうさじょうかく)と呼ばれる部位にあります。一般に体内時計といえばこの視交叉上核を指す場合が多いです。
視交叉上核には何種類かの「時計遺伝子」を持つ「時計細胞」が約1万個も集まっています。時計細胞は体内のフィードバックシステムを使ってサーカディアンリズムを作り出しています。
別の言い方をすれば、各時計遺伝子はサーカディアンリズムに合わせて増えたり減ったりします。このような時計遺伝子の「動き」をまとめて、体内時計と呼ぶ。
朝増える時計遺伝子、夜増える時計遺伝子、というように、時計遺伝子の「動き」は体内の時刻を表現しています。
前述したように、サーカディアンリズムは24時間より少し長く、毎日リセットしないと、少しずつ地球の自転周期との「ずれ」を生じてしまいます。
このずれを解消し日々のリズムを整えるために、体は朝の太陽の光で親時計(視交叉上核)をリセットし、新しいリズムを刻みます。
窓のない部屋に閉じこもって生活を続けると、やがて体内時計の時刻は地球の昼夜と逆転してしまうことにもなる。朝起きてある程度明るい光を浴びることが重要で、曇りの日の照度でも十分です。朝起きたらカーテンを開けて光を取り入れましょう。
朝の光で親時計がリセットされると、親時計から自律神経を介して全身の細胞の時計(子時計)へ時刻が伝えられ、それに合わせて子時計もセットされます。
私たちの血圧、体温、ホルモン分泌、代謝などさまざまな整理機能は大きく左右されます。例えば、血圧は日内変動が乱れて夜間の血圧が通常より高くなると(夜間高血圧)、心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)のリスクが高くなることが知られています。体内時計は遺伝子レベルで設定されています。これに逆らった生活は、全身の各臓器に不調を引き起こし、不眠だけでなく、がん、感染症、心臓血管系疾患、代謝疾患や精神疾患など、あらゆる病気の引き金となりえます。
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